La Finestra nuova Vol.5
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工業化の波によってもたらされた自然破壊や、健康を脅かす公害に対する人々の意識が高まりました。当時、ポートランドにはいわゆるヒッピーが多く住んでいましたが、彼らは自然を愛するため環境運動を率先して行っていたそうです。それを見たオレゴン州知事が、彼らと一緒に持続可能で自然豊かな街をつくるという方針を打ち出しました。それがいまのポートランドのような街づくりのきっかけになったと言われています」 当時、市内を縦断するように走っていた高速道路を撤去して市民の憩いの場となる公園をつくり、都市の乱開発を防ぐため市街地と自然区域を区切る境界線を設けるなど、ポートランドが現在の姿へと変貌を遂げた陰には、行政、市民、デベロッパーが一体となった都市開発があったのです。 経済大国のアメリカといえば、MBAや先進的なマーケティング手法で世界的に展開する大企業が多い国です。ただ、ここポートランドではビジネスのスタンスも少し異なるようです。 「いまやポートランドの観光名所になったパウエルズ・ブックスというインディーズ書店があります。そこのCEOの話がとても印象的でした。成功にはサクセスフルとキラー・サクセスフルがあって、サクセスフルとは同業他社と一緒にカルチャーを広めていくこと、キラー・サクセスフルとは周りのことを考えずに一人勝ちすること。私たちはサクセスフルを目指すとおっしゃったのです。ポートランドで働く人の多くはサクセスフルなマインドで仕事をしていますね」 なりふり構わない成功よりも、社会性を重んじてソーシャル・アセット(社会的資産)を優先するのがポートランド流の生き方。いまポートランドの暮らしが全米から注目される理由も、こうしたスタンスにあるようです。 「人々の意識を変えたのは2008年のリーマン・ショックだったようです。それまでは利益追求、効率優先という考えでしたが、リーマン・ショックが生活を見直すきっかけに(左)ポートランドは全米で最も先進的な自転車推進都市。©Rob Finch (右)ガスを使わずに薪窯を使用するレストランも多い。©Torsten Kjellstrand(左)多くのカフェが店内で焙煎を行う。©Jamie Francis (右)ショップではハンドメイドの1点ものも多く見つかる。©Torsten Kjellstrand拡大・成長とは異なる暮らし方のヒントがある

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